さらりーまん麻酔科医の専門医試験対策ページです。これからもよりよい対策資料を作っていきたいと思っています。 何かご相談などあればいつでもメールください。 ※ブログ引っ越しました。
2012年4月17日火曜日
まとめ:腹腔鏡下手術と気腹の合併症
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□腹腔鏡下手術の麻酔のポイント
・基本的に全身麻酔(+硬膜外麻酔)が選択される
・気腹の生体に与える影響を把握(前投稿)しておく。
・視野の確保に協力する(胃管吸引、マスク換気で消化管に空気を送らないなど、十分な筋弛緩)
・腹腔鏡下手術中にバッキングを起こすと、手術器具による血管損傷や臓器損傷を起こす可能性があるため、十分な筋弛緩が必要。
・硬膜外麻酔を併用しない場合、ポート挿入部にあらかじめ局所浸潤麻酔を行なっておくと、術後鎮痛に役立つ。
・気腹圧は必ず麻酔記録に記録する。送気圧が高くなると循環抑制が強く出始めるので、基本的に気腹圧は15mmHg以下で。 10mmHg以下であれば生理的にほとんど悪影響はない。
□腹腔鏡下手術の利点
・通常の開腹術にくらべてストレス反応が抑えられるため、急性期の反応物質(CRPやIL-6など)の上昇が軽度。高血糖や白血球の増加も軽度。
・腹腔内臓器を大気にさらさなくてよい。
・術後痛が軽度で鎮痛薬の必要量も少ない。
・術後肺機能の低下が抑えられる(術後痛が軽度、術後無気肺の発生が少ない⇒早期離床が可能)
・傷が小さく、創感染も少ない。 など
□腹腔鏡下手術時の体位(術中体位の詳細については別頁予定)
・腹腔鏡下手術では頭高位(+左傾斜)
・下腹部手術(直腸、前立腺、婦人科手術など)では頭低位(+砕石位)
◯頭高位
・呼吸器系には利点が多いが、静脈還流の減少により心拍出量が減少し、血圧も下がりやすい。気腹自体に下肢への貯血作用があるため、この作用は増強される⇒肺血栓予防のために弾性ストッキング(ES)や間欠的空気圧迫法などを。
◯頭低位
・横隔膜の挙上による呼吸器系への悪影響が増大する(FRC↓、無気肺発生リスク↑)。静脈還流の増加により心拍出量は増加するが、心機能障害のある患者では悪化する可能性がある。
・中心静脈圧の上昇により上半身の還流が悪くなり、脳圧、眼圧は上昇する。
・肩の支持器などの圧迫により腕神経叢障害を起こすこともあり注意。砕石位の場合は大腿神経の圧迫や坐骨神経障害などのリスクもある。
□気腹による合併症
※気腹による合併症の多くは、聴診やバッグの抵抗、気道内圧の変化で診断できることが多い。異常時はこれを意識しておく。
◯気管支挿管
・気腹による横隔膜の挙上、頭低位により気管チューブが1cm〜1.5cm程度深くなる。酸素飽和度低下や気道内圧の上昇(PCVの場合は換気量の低下)で気がつく。聴診で容易に診断可能。
◯気胸、二酸化炭素気胸
・横隔膜の損傷、皮下気腫の診断、気道内圧上昇による圧外傷などで生じる。また極稀だが、腹腔〜胸腔の交通がある場合にも発生する(胎生期のなごり)。
・聴診で呼吸音に左右差が生じる。気管支挿管を疑いチューブ位置を調整しても、SpO2低下や気道内圧上昇(PCVの場合は換気量低下)などが改善しない場合に疑う。肺の実質損傷がなければ理論的には胸腔ドレーンの必要はないが、その判断は難しい。気腹はもちろん中止する。
・通常の気胸であればEtCO2は低下するが、二酸化炭素気胸の場合には上昇する。
◯皮下気腫
・CO2ガスによる高二酸化炭素血症は15〜30分以内に定常化する(分時換気量を増加させれば、正常値になる)。それ移行もEtCO2が上昇する場合に皮下気腫を疑う。前胸部などの握雪感で容易に診断可能。
・対処としては気腹圧を下げられるなら下げる。
・一番怖いのは頸部に皮下気腫が及んだ場合で、抜管後の気道閉塞のリスクがある。そのため抜管するのであれば、必ず抜管前に声門部を喉頭鏡で確認する。少しでも不安があれば、皮下気腫が改善するまで術後も人工呼吸を継続する。
・皮下気腫を認めた場合は気胸合併の可能性を常に疑うことが重要。術後には必ず胸部〜頸部の皮下気腫を確認し、胸部レントゲンも施行する(場合により術中にも)
◯静脈ガス塞栓
・空気塞栓への対応も参照のこと。
・気腹開始時に穿刺針やポートが血管や腹部臓器に入った場合や、CO2ガスが門脈系に入った場合(肝門部操作中)に生じることがある。
・CO2は血液の溶存度が高く、肺で急速に除去可能なため、大量でなければ致命的になる前に対処できる。ただし、送気圧が高く、発見が遅れると大静脈や右房でガスロックが起こり、肺血栓塞栓症と同様に循環虚脱を起こす。また全身性のガス塞栓(脳循環や冠循環にも)も大量のガス注入や卵円孔を介した流入により起こりうる。
・ガス送気をすぐさま中止し、100%酸素、頭低位+左側臥位に!
□参考文献・書籍・Web
1)手術に欠かせない臨床麻酔のスキル p92-101
2)MGH麻酔の手引き p377 597
3)手術別麻酔クイックメモ p196-197
4)麻酔への知的アプローチ p469-475
5)麻酔科エラーブック p300-302
6)麻酔科シークレット第2版 p527-533
7)麻酔科研修チェックノート第3版 191-194
8)麻酔科臨床の書 p117
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とても参考になりました。ありがとうございました。
返信削除腹腔鏡手術後の著明な右気胸を経験し、『気胸』『横隔膜』『気腹』で検索して、このページに至りました。以前横隔膜ブレブの症例を経験したことがあり、今回の気胸もその可能性を考えています。このページ、参考になりました。ありがとうございます。(34年目の消化器外科医)
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