□基礎知識
・麻酔科が関与するPTEのうち14~16%が術中発症である(怖)
・女性>男性 60〜70歳台に発症のピーク
・APEの原因となるDVT患者のスクリーニングには、問診診察、臨床症状(下腿の腫脹や発赤、痛みなど)と血清D-dimer(術中には手術侵襲で上昇するため鋭敏な指標ではない)、エコーやCT等の検査
・DVT患者ではリスクの階層化に従い、理学的療法や抗凝固療法で予防
・症状、理学所見、検査で、本性に特異的なものはない。
□症状による分類
・massivePE:左右主肺動脈などの中枢の血栓塞栓。急性右心不全から循環虚脱(低血圧、ショック、心肺停止)
・sub-massivePE:血圧は維持されているものの右心不全徴候あり
・non-massivePE:右心不全を伴わずに、低酸素血症やEtCO2の低下のみ認める。
□急性期の症状・徴候
※術中発症もあるが、一番多いのは術後安静解除後の起立・歩行・排尿排便時。
※意識があれば
□胸痛
□呼吸困難
□咳・冷感
□頻呼吸(>20回/分)
□頻脈、発熱など
※意識がなければ
□低酸素血症、酸素飽和度低下
□血圧低下・ショック・最悪心停止
□EtCO2低下(EtCO2-PaCO2較差増大)
□右心不全徴候(頸静脈怒張、頻脈など)
□急性期の検査
・血液ガス:低酸素血症、EtCO2-PaCO2較差増大・心電図:右心不全があれば右脚ブロックなど
・D-dimer:除外診断には有用。手術侵襲で上昇することが多いため、診断価値は低い。
・肺血管造影(手術室で可能。施設による)
・胸部造影CT:確定診断
・超音波(TTE、TEE):右室負荷所見(拡張終期の著明な右室拡張、心室中隔が左室側へ張り出す心室中隔奇異運動、右室壁運動低下)、左室の扁平化⇒sub-massive以上のAPEで。TEEは左右中枢肺動脈における血栓塞栓の直接診断で頻度が高い。
□治療
・バイタル維持(輸液、各種昇圧薬)、心肺蘇生
※過剰輸液は右心容量負荷による左心室圧排で心拍出量低下の可能性があるため、推奨されるエビデンスはない。昇圧薬はドパミン、ドブタミン第一選択。血圧維持にはノルエピネフリンの使用も。
・心停止またはそれに準ずるような循環虚脱が生じれば、CPRを行いながら補助循環(PCPS)の準備。
・状況、施設によっては経カテーテル的治療(血栓吸引、溶解)、外科的血栓塞栓摘除術
・抗凝固療法:ヘパリン5000単位静注後1400単位程度/h持続。APTTを対照値の1.5~2.5倍に維持。
・血栓溶解療法:我が国の適応はモンテプラーゼ(13750~27500単位/kg)。術中は使用しにくいが、蘇生に反応しない症例に対して、出血を考慮しても有用であるとのデータもあるよう。 ショックや低毛歌津が遷延する場合には、禁忌例を除き第一選択
・予防には未分画ヘパリンや低分子ヘパリン(日本適応未)、フォンダパリヌクスを用いる。ワーファリンは術中APEや術直前のVTE予防の適応はない。一般的にはヘパリン投与後の継続的な抗凝固療法として使用する。PT-INRは1.5~2.5に維持する。
□血栓溶解療法の禁忌
・絶対禁忌:活動性内部出血、脳出血後
・相対禁忌:手術、出産、2ヶ月以内の脳梗塞、10日以内の消化管出血、15日以内の重症外傷
血小板10万以下、PT時間<50%
□IVCフィルターについて
※まだ適応が有効性に関する十分なエビデンスは確立はされていない。
classⅠ:抗凝固療法禁忌例や抗凝固療法中の再発例など
classⅡa:骨盤内静脈・下大静脈領域の静脈血栓、近位部の大きな浮遊静脈血栓、血栓溶解療法・外科的切除をする症例など
classⅡb:静脈血栓はないが、ハイリスクの外傷・手術症例
※ 麻酔科医としての急性期の対応
□術者に知らせ、手術一旦中止。応援の麻酔科医を集める(hurry call)
□術中APEが生じた時のプロトコールが各施設で決まっていればそれに従う(術中肺動脈造影や治療など)
□TEEなどで診断できれば診断。
□抗凝固療法(ヘパリン5000単位iv)
□バイタルの維持に努める(輸液、昇圧薬)
□参考文献・書籍・Web
1)合併症麻酔のスタンダード p95-105
2)肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)
3)本ブログ
など
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