まとめ：低体温と麻酔①

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※軽度低体温をきたしやすい周術期の生体に対する影響
・インスリン分泌障害と抵抗性による高血糖
・シバリングの発生
・出血量増加とそれに伴う輸血量増加
・覚醒遅延
・不整脈の発生
・寒冷利尿による脱水
・血圧上昇、頻脈
・術後創感染の増加
・凝固障害、血小板機能障害 　　　など




□熱損失のメカニズム
①輻射（熱損失の約60%）：全身麻酔中は拡張した末梢血管により熱損失は増大する。
②蒸発（熱損失の約20％）：粘膜や漿膜、皮膚や肺より水分が蒸発する
③伝導（熱損失の約5％）：隣接している物体へ温度が伝達される。
④対流（熱損失の約15％）：手術室内の空気の流速が速いと熱損失が増大する。
※これに加えて全身麻酔後早期に深部から末梢組織への熱の再分布が起こり中枢温は低下する。

□低体温の分類と主な症状・徴候
①軽度低体温（32〜35℃）：高血圧　高血糖　頻脈　シバリング　寒冷利尿　中枢神経系の興奮　凝固障害　など
②中等度低体温（28〜32℃）：心拍出量低下　中枢神経系の抑制　心房性不整脈　酸素消費量低下（25〜50％）
③高度低体温（22〜28℃）：低血圧　徐脈　心室性不整脈　脳幹反射の消失　酸素消費量の減少（<50％）など
④超低体温（<22℃）：心停止　脳波の群発抑止

□麻酔と低体温①　おおまかなポイント
・揮発性麻酔薬は視床下部の体温調節中枢を抑制し、血管拡張による熱の再分布と熱損失をもたらす。この反応は速やかに起こり、導入後最初の1時間で0.5〜1.5℃降下する。
・オピオイドは考案神経遮断作用により血管収縮を抑制する（⇒熱損失を助長する）
・筋弛緩薬によりシバリングが抑制される（⇒熱産生の障害）
・区域麻酔も全身麻酔も体温調節機能を抑制する。
・覚醒遅延の原因となる（薬物代謝の抑制などの影響による）
・低い室温、冷たい輸液・輸血、体表の消毒液、裸でいることで容易に低体温になる。
・小児も高齢者も低体温になりやすい。
・低体温患者の尿量は寒冷利尿の影響もあり、循環血液量評価には有用でない（むしろ高度の脱水を引き起こすことがある）

□麻酔と低体温②　低体温の副作用と合併症
・患者の不快感（冷感の訴え）
・シバリング（酸素消費量増大）
・創感染、創離開
・代謝の亢進によりアシドーシスをきたしやすい
・術中出血量が増加し、輸血量も増える
・免疫機能低下（直接免疫機能障害と血管収縮による創部組織への酸素供給の低下）による創感染が増加する。
・心筋虚血の発生頻度の増加
・術後心合併症の頻度増加

□麻酔と低体温③　生体に与える影響
①心血管系・呼吸器系に与える影響
・心拍数、心収縮力の減少⇒心拍出量の減少
・心房性、心室性不整脈の発生
・循環血液量の減少（寒冷利尿による）
・体血管抵抗、肺血管抵抗の上昇による血圧上昇
・低酸素性肺血管収縮（HPV）の抑制
・換気量の低下
・換気血流不均等の増強
②代謝に与える影響
・組織灌流の低下（カテコラミン反応による）
・酸素消費量と二酸化炭素産生量の減少。
・インスリン分泌減少。ストレスホルモン（カテコラミンやコルチゾル）増加によるインスリン抵抗性による血糖値上昇。
③血液に与える影響
・血液粘性の上昇
・ヘモグロビン-酸素解離曲線の左方移動
・凝固能障害、血小板機能障害
④神経系に与える影響
・脳血流量減少
・脳血管抵抗の増加
・最小肺胞濃度（MAC）の低下（1℃低下で5%低下させる）
・覚醒遅延を引き起こす
・（覚醒していれば）傾眠傾向、錯乱など
⑤肝機能に与える影響
・肝血流量の減少。薬物代謝の減弱
⑥腎機能に与える影響
・腎機能障害の誘発。
・糸球体濾過率の低下
・腎血流量の減少
・Naの再吸収障害
・寒冷利尿（尿細管機能の抑制、ADH分泌の抑制、心拍出量と臓器灌流の変化などによる）⇒循環血液量減少へ


□低体温の予防
・室温の維持または上昇（スタッフが耐えられる程度に）。1℃上昇するごとに熱損失が7％減少する
・ブランケットやビニルで体表を覆う（受動的保温）。熱損失が30％にまで減少。温風式加温装置が特に有効
・輸液、輸血を加温する（特に大量輸液・輸血時）。室温の輸液を成人に1リットル投与すると、中枢温は1℃近く低下する。
・温水式加温マットは、患者背面からの熱喪失がもともと最小限であるため、あまり有効ではない。
・洗浄液の加温
・低流量麻酔




※参考文献、書籍、Web site
1.MGH麻酔の手引き（MSI）p340-341 p525-574
2.SICU pearls 外科ICUで困った時に開く本　p174
3.麻酔科診療プラクティス13　モニタリングのすべて（文光堂）　p168　
4.Boodhwani M, et al. Effects of mild hypothermia and rewarming on renal fucion after coronary artery bypass grafting. Ann Thorac Surg. 2009;87:489-95
5.心臓血管麻酔マニュアル　中外医学社　p199.225.232.316
6.心臓手術の麻酔　p253.385.564
7.麻酔への知的アプローチ第7版（日本医事新報社）　p258,307
8.麻酔科エラーブック（Avoiding Common Anesthesia Errors）（MSI）303-304,347-349,495,565
9.麻酔科シークレット第二版（MSI）p222-224
10.麻酔科診療プラクティス17　麻酔科トラブルシューティング　　p255
11.麻酔科研修チェックノート第３版（羊土社）p159
12.麻酔科専門医認定筆記試験問題解説集45〜49回